紀州鉄道  キハ600形
 
  和歌山県は御坊市。日本で2番目に短い私鉄「紀州鉄道」があります。江ノ島あたりでもその名前を見かけたことがありますが(^^;鉄道路線もしっかりあります。その紀州鉄道で昨年まで活躍していたディーゼルカーがキハ600形になります。
生まれは昭和35年。大分交通で活躍した後、2両が和歌山へとやって来ました。国鉄ではキハ20形が既に登場していましたが、それよりもかなりノスタルジーな雰囲気は晩年になるにつれ人気上昇。画像右の方に写っているキハ604は稼働しなかったものの、キハ603は週末を中心に運転、多くの鉄道ファンや地元の方に親しまれてきました。
しかし、老朽化は否めず、2軸レールバスのキテツ1形に置き換わる形で引退。現在も沿線に留置中とのことですが…?!
(取材・撮影 紀州鉄道線・御坊〜西御坊)

 

 

 


車内全景からご覧頂きます。JRから乗り換えると僅かながら狭く小さい車内に気がつくと思います。
2ドアセミクロスシート。僅か数駅のミニトリップには十分すぎる車内設備です。
ご覧の通り冷房はなく、床も一部を除いて木材を使用。化粧板も寒色系の物を使用しています。座席のフレームがそれに合わせて薄緑色に塗られているのが微笑ましいです。


乗務員室との仕切りです。極めてオープンな乗務員室との仕切りで、運転席の足元までオープンになっています。そのすぐ背後には座席も設けられていますが、運賃箱に近いロングシートは足元が狭く、ちょっと座るのには躊躇してしまいそうです。
運賃箱は固定で、その上には紙に書いた運賃表、さらにスピーカーが設けられています。
南部縦貫鉄道や東武鉄道キハ2000形あたりにも通ずるこの開放感、当時の私鉄ディーゼルカーでは当然の仕様だったのかもしれません。


天井です。白熱灯とベンチレーターからの通気孔がメイン。ドア付近には吊革も備えています。
・・・え、冷房が無いって?!そんな物この車内では全く要りません。

夜はこの白熱灯からの灯りが良い雰囲気です。
取材前日の夜の運用にも乗ったのですが、イマドキ珍しい飴色の空間に癒されるヒトトキを過ごしました。


床は一部鉄板を使っている他は木材を使用。この色合いも素敵に齢を重ねないと得られません。
最近は路面電車や一部特急くらいしか見かけなくなってしまいましたが、紀州鉄道の床はディーゼルエンジンの振動がダイレクトに伝わってきます。

 
ドア周りです。出ました塗りドアです。右の画像は各段の高さを低めに設定したステップです。ステップに灯りはありませんが、ゼブラ塗装とドアの明かりとり窓が段差の存在を喚起してくれます。
JR大糸線のキハ52形や島原鉄道のキハ20形などが引退したことによって近年急速に数を減らしつつあるプレス塗りドア。国鉄でお馴染みの薄緑色よりも若干青みがかっています。

ワンマン運転ではありますが、整理券発行機の類は見当たりません。


こちらも懐かしいアイテム。「バス窓」と呼ばれる2段窓です。
そして網で編んだ網棚。この車両にとっては当たり前の装備ですが、レトロ心を十分くすぐられてしまいます。

なお、ここまで揃っていたら欲しいところですが…テーブルはありません。
乗車時間を考慮するとなくてもともと、しかしこのバス窓が旅情をそそるとなると、窓近くのテーブルにキャラメルでも置きながら移動したくなってしまうものです。

 
ここからは怒濤の座席ごぼう抜き。まずはドアと乗務員室の間のロングシートからです。
ご覧の通り直角の背もたれと奥行きのあまりない座面。先述の通り動線になっていたり、ドアコックを扱うための丸い穴が哀愁を誘います。ただ、乗務員さんの一挙手一動作をすぐ後ろで見られる、なかなか臨場感に富んだ環境にもなります。
廃車前のお別れ乗車では人気があったのではないでしょうか。


凄い!3人掛けロングシートはドアとクロスシートの間にあります。
先ほどと同じような座席ですが、前に障害物が無いことも幸いして気軽に座りやすい席だったのではないでしょうか。
袖仕切りは床から伸びるバータイプ。懐かしの路面電車や旧型国電のそれを彷彿とさせてくれるスタイルですが、座席とは僅かに離れており、スペース的な余裕も考慮されています。このゆとり、今の車両はどこへ行ってしまったのでしょうか?
シートヒーターの覆いまで薄緑色で塗られており、なかなか鮮やかかつ賑やかな装いになっています。


クロスシート、背面からです。
小ぶりのクロスシートながら肘掛けを設けている点は特筆に値します。そして背もたれを斜めに切り取って取っ手を設けていますが、このデザインも旧型国電、とりわけ山口県で長きに渡って活躍してきたクモハ42形で大変お馴染みのデザインであります。もちろん立客はほぼ皆無だったのでこの取っ手でも用が足りたのでしょう。人間の進化の過程と同じ…かどうかは微妙ですが、その後取っ手は半月状へと姿を変えることになります。

 
クロスシート単体です。左の画像が端の席、右の画像が4人1組の物になります。
フレームは全て薄緑色に塗られており、蘇芳色とのハーモニーを奏でる格好になります。足元が狭いのがここ最近のディーゼルカーですが、この車両は足元はやや広いのではないでしょうか。ただ、肘掛けと暖房はありません(^^;;;

背もたれが平面になっており、座面と一体になっています。キハ20形などで見かけた「背もたれと座面が分離しているタイプ」とは全く異なり、座席の意のままに座ると座高を測りそうな勢いで背をピンと伸ばすような形になります。
でも、短距離ランナーにはこの座席で十分。この車両にこれ以上求めることが邪道に思えてきます。



掲示の推移がイマとカコを結んでいました。
マスコットのような愛おしさ。夜の飴色の空間。朝の軽やかなアイドリング。
私は単なる「一見さん」でしたが、何よりも記憶に残る乗車となりました。

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